もうずいぶん前のことになりましたが…。
チラシやパンフのレイアウトするとき(Webも同様ですが)、写真や見出し、文字などの各要素を「揃えて配置すると良い」ということを以前書きました。(下の記事)
上記記事の「ポイントその①」で、いわゆる「グリッドデザイン」の基礎について書いたのですが、今回はそのレベルアップ版、少し気をつけてあげた方が良い小ネタです。
広告を発注される方も知っていると広告を見る目のアップに役出つ…かもしれません。
「仮想ライン」に揃えるのはレイアウトの基礎。ですが…
広告のデザインなどのレイアウトで「補助線」的なものを想定してこれに揃える、というテクニックはよく使われます。
イラレ(Adobe Illustrator)などのレイアウト用アプリケーションでは「ガイドライン」と呼びますが、このブログでは「仮想ライン」という呼び方をします。
例えば下のレイアウト。「仮想ライン」は実際の仕上がりでは表示されませんが、この線がレイアウト的に「骨格」となって構造的な安定感と緊張感を紙面に持たせることができます。
空飛ぶ鴨の写真を全面にレイアウトし、写真中の鴨をデザイン要素として使用しています。
鴨の写真は今回も横浜市都筑区の「せせらぎ公園」にて撮影したものです。
仮想ラインを外すと、こんな感じ。
「仮想ライン」は見えなくても構造的な機能を果たしていることがお分かりいただけると思います。
ただこれは「基礎レベル」の段階でして、このままデザイン案として出してしまうと、目の肥えたクライアント様からは「もう少し考えてよ〜」と言われてしまうかもしれません。(詳しくは後述)
ともあれ、このレイアウトに使用する見出しや画像、本文などを「オブジェクト」と呼ぶのですが、四角い形のオブジェクトであればこの「仮想ライン」に沿って並べて行けば、とりあえずOK。でも丸や三角などのオブジェクトが混ざるときなどはデザイン的にひと工夫をした方が良い場合もあります。
上の図では水平方向に「仮想ライン」を設定し、これに合わせて丸と三角と四角を並べました(上)が、
仮想ラインを外してみる(下)と四角に比べて丸や三角が小さく見えます。
なぜこうなるのでしょうか?
丸と三角とレタリングの話
結論から言うと、丸いものや尖ったものは少しはみ出させないと、見た目的に小さく見えてしまいがち、ということになります。(面積が狭い、ということもありますが…)
比較的わかりやすいと思われるのは文字の並び。
デザイン関係の学生はかなり早い段階で「レタリング」を学ぶ、と思います。レタリングとは簡単に言えば「文字の形状と並べ方の勉強」です。
そして欧文(英語など)のレタリングでは、上下の平らな「D」とか「E」などと、上または下の丸い「S」とか「G」などは実は同じ仮想ライン上に並べない、というテクニックを学びます。
というわけで実例です。
グラフィックデザインの世界では超定番欧文書体、ヘルベチカ(Helvetica Regular)の場合です。
上の図のように「S」とか「G」は少し上下にはみ出すと、視覚的に安定感が出ます。
「N」のように上や下に尖った部分を持つものは(書体により異なります)、これもはみ出させます。
と、いうことでこちらもセリフ系とサンセリフ系(ゴシックと明朝体と思っていただいて大体OK)の双璧、フーツラ(Futura Medium)とタイムズ(Times New Roman Regular)の「N」です。
フーツラの「N」のとんがり部分は少々極端に見えるかもしれませんが、こういうデザインの書体なのでご容赦くださいませ。
これと同様に丸と三角、四角を並べるときも丸い部分、尖った部分は引っ込んで見えます。この効果はレタリングだけでなく、デザインの基礎とも言えるものです。
と、いうことで図形のレイアウトにおいても文字同様の対処をしたのが下の図となります。
実際にはデザインの意図などの諸条件により、はみ出させるのかはみ出させないのか、はみ出させるとしたらどのくらいの量なのか?は柔軟に判断する必要がありますが、原則としては少しはみ出させるのがセオリーです。
でも、「きっちりしている」だけでは少々厳しい!?
このように「仮想ライン」にオブジェクトを揃えて配置することを「グリッドデザイン」と呼ぶのですが…。
この記事の上の方で書いたように単純に「仮想ライン」に揃えただけだと絵的にあんまり面白くないし印象も弱いことが多い。状況によっては「安直に済ませたな〜」と思われてしまう場合もあるかもしれません。。
そのようなわけで単純な「グリッドデザイン」だけのレイアウトでは、ある程度インパクトの必要な広告デザインにははちょっと不利というか、集客効果や宣伝効果を求められる営業ツールとして物足りないということが起こり得ます。
「きっちりしている」だけでは少々厳しいのですね。
なので、要所を押さえて傾けたりはみ出させたりして意図的に規則性を「崩す」とグラフィックデザインとしての強さと面白さが出ます。(失敗して単に「外した」デザインになるリスクはありますが。。)
と、いうことで今回は「SUMMER」の文字を傾けて左に引っ張り出し、視覚的な「フック」としてみました。仮想ラインも使いつつ、完全に合わせてはいません。ついでに色も少々いじりました。
仮想ラインを外すとこんな感じ。「広告らしさ」はアップした…はず。
「SUMMER」を細めの「Helvetica Neue Thin」、
「DESIGN」を太めで斜体の「Helvetica Neue Bold Italic」にしています。
書体を同一ファミリー(銘柄)のウェイト(太さ)違いにするのはこれも定番のデザイン手法ですが、統一感と動きを両立できるのでおすすめです。
「Neue」は「ノイエ」と読みます。読み方が英語調でもフランス語調でもないような気もしますが…、ちなみにヘルベチカはスイスのデザイナーがデザインした書体でして、「Helvetica Now」という書体もありますし、派生フォントの「Arial」や「Geneva」、代用フォントの「Swiss 721」などもあり、ちょっと調べるだけでもフォントの世界は結構底なしだ…というのがわかると思います。