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黒より黒く印刷できる!?デザインの小技「リッチブラック」の話

リッチブラックのイメージ

先週(7月16日ごろ)関東地方も梅雨明けして、当事務所のある横浜市都筑区でも連日夏空が広がっています。写真は梅雨明け直後、横浜市歴史博物館付近の空です。まだ雲多めながら、久々の青空でした。

夏空と横浜市歴史博物館

 
今回はチラシやカタログで高級感や引き締まった感のあるデザインをしたいときに使いたい「リッチブラック」について書いてみたいと思います。
 

まずはおさらい。4色印刷ってなんでしたっけ?

カラーの印刷物では多くの場合、CMYKの4色で印刷しているという話はこのブログでも何度か書きました。

「CMYK」というのは「シアン(Cyan) マゼンタ(Magenta)イエロー(Yellow)ブラック(Black)」でして、ざっくり言えば「」だと考えて頂いて大体OK、かと思います。

詳しくは下記の過去記事をご覧ください。

【広告印刷物デザイン】今更ですがチラシやカタログの「4色印刷」ってなんですか?

チラシやパンフレットのデザイン作業(いわゆる「DTP」)をするときは、色は数値で指定するのが一般的です。

例えば緑色を使いたければ「C50%+Y80%」といった具合です。
「青と黄色を混ぜて緑色にする」ということでイメージはしやすいかなと思います。

「C30%+Y80%」とすれば黄緑色、「C80%+Y30%」とすればペパーミントグリーン、という具合に色を調整することができます。

緑色のバリエーション色見本

 

黒の表現は通常「スミベタ」でOK。しかし微妙に薄くて引き締まらない?

では黒の指定はどうするか。

普通に考えれば黒のインク(つまり「K」)を100%で指定します。
この「黒インク100%」のことをデザイナーや印刷会社の人は「スミベタ」と呼んだりします。

通常、黒の表現はこの「スミベタ」でOK。

実際、本文の印刷はK100%になることが多いです。(背景が白や薄い色の場合、ですが)

しかし広い範囲を黒く塗りつぶしたい時などはK100%だと微妙に薄く引き締まらない、という場合があります。イメージとしては下の図のような感じ。わかりやすいように黒を100%ではなく95%程度にして、さらにCMYKモードからRGBモードに変換しているので数値的には正確ではないですが。。見た目のイメージはこんな感じです。

黒の色見本(CMYKモードとRGBモード)

上の図右の「#000000」は何か?…というとWebデザインの時に使う色の表示です。
ホームページなどの制作では黒を表す「#000000」で指定すれば最も黒い「黒」を表現できるので「スミベタが微妙に薄い」という問題は起きません。

ということでウェブ制作においては、使用するパソコンやスマホ画面の出せる最も黒い「黒」を簡単に指定できます。

スマホを見せる女性と黒画面

 

印刷物で、より黒々とした「黒」を表現したい時どうするか?

では、印刷物でより黒々とした「黒」を表現したい時はどうするか?
…というと「黒(K)に他の色を追加してやれば良い」ということになります。

例えばスミベタであるK100%に、他のC・M・Yを30%ずつ追加して
「C30%+M30%+Y30%+K100%」とすれば濃厚な「黒」になります。

これを「リッチブラック」と呼びます。(※各色の配合は一例です)

K100とリッチブラック色見本

理論的には三原色であるC・M・Yの3色を100%ずつ混ぜれば黒になるのですが、実際にはインクの発色の限界があり完全な黒にならない…ということで黒インクを使っているのですが、この黒インクの発色にもやはり限界がある、という理解でよろしいかと思います。
 

CMYK全部100%(!)なら究極の『黒』が実現できる?

ただそうなると「CMYK全部100%にすれば究極の『黒』が実現できるのでは?」と思いますよね。

この「CMYK全部100%」には「レジストレーション」という名前が付いていて、印刷物のデザインでは「トンボ」という部分にのみ使用されます。

ちなみに「トンボ」というのはこのようなもの↓です。

印刷物のトンボの例

このトンボは印刷物の仕上がり断裁で切り落とされてしまうので通常あまり目にすることはないのですが、4つの版の位置合わせの指標として元のデザイン制作データには大抵入っています。

上の図中の「塗り足し」や「断ち落とし」についての詳細は下記の過去記事も併せてご覧ください。
【コラム&Tips】印刷物のデザインにはほぼ不可欠のトンボと塗り足しとレジストレーション

下の図はCMYKの4種類の版とそれを重ねて印刷したイメージです。

青/赤/黄/黒の4つの刷版(さっぱん)を用意して、これを重ね刷りするとカラーの写真を印刷できる、という仕組みです。黄色(Y版)は少々見づらいですが、青(C版)と赤(M版)を見比べると猫の目や背後の梁など濃度が異なっているのがわかると思います。

C版・M版・Y版・K版それぞれの色でトンボがあり、これらのトンボがぴったり重なるように4つの刷版を重ね刷りしますので、4色カラー印刷でのトンボはデザインデータ上では最初から「CMYK全部100%」の「レジストレーション」で作成するのがお約束です。

CMYK4つの版と掛け合わせたイメージ

 
そのため2色印刷ならトンボも2色で、単色印刷ならトンボの色も1色のみ、となります。

なぜこのレジストレーションをトンボ以外の部分で使わないのか?というと、結論から言うと「インクが多くなりすぎるから」ということになります。
 

「インク総量」と、おすすめしやすい「リッチブラック」の例

インクをたくさん使いすぎると印刷用紙にインクが乗り切らなくて汚れが出たり、色が濁ったりというトラブルの元になります。トンボは細い線だけなので使うインクも少ないので問題になりませんが、広い面積に使うのはトラブルの元。

レジストレーションを多用した印刷データを印刷会社に入稿してもインク総量が多すぎます」などと言って突き返されることになると思います。

「インク総量」というのは名前の通りインクの量ですが「CMYK全部100%」なら100×4で「インク総量400%」となります。

印刷のインク総量のイメージ図

大抵印刷会社は「インク総量を250%〜300%程度にしてください」というようなことを入稿規定に書いてあると思いますので、そちらの許容範囲で色を決めるのがベター。

先ほどの「リッチブラック」の例で挙げた「C30%+M30%+Y30%+C100%」なら30+30+30+100=190%となり、インク総量としてはセーフ。

実際のデザイン制作でのリッチブラックはC版を少し多くすることが多いので「C30%+M20%+Y20%+C100%」あたりがおすすめです。インク総量も170%で済みます。
 

リッチブラック背景で白抜き文字を使うリスク

なお、要注意なのが黒背景に白抜き文字を使いたい場合。
リッチブラック背景で白抜き文字を使うのは一定のリスクがあります。

白抜き文字版ズレイメージ

それは何かというと「微妙な版ズレ」
「版ズレ」とはCMYKの4つの版の印刷位置が微妙にズレることを言います。

上の図は微妙な「版ズレ」を擬似的に再現しています。下に行くほど文字が小さく、細くなっています。…といってもパソコンやスマホの画面では「版ズレ」が微妙すぎてわかりづらいと思いますが、それでも「版ズレ」の影響で下の方の文字はかなり見づらくなってしまいます。これが「文字のツブレ」と呼ばれるものです。

印刷機の中ではCMYKの4つの版をそれぞれ順番に印刷して最終的に4色カラー印刷としているのですが、4つの版がごくごくわずかにズレることはよくあります。そのため広告デザイナーは微妙な版ズレが発生する前提でデザイン制作をします。

見出しなど大きな文字なら少々のズレなら影響はあまりないのですが、問題は小さい文字。小さい文字は微妙な版ズレも目立ちやすいのです。特に明朝体は小さい文字を使うと細い部分などが潰れてしまう可能性が大きくなります。

上の図を4倍に拡大したのが↓下の図。

白抜き文字版ズレイメージ拡大図

微妙な版ズレは印刷物としては「誤差の範囲」扱いで不良品扱いにはならないことが多いのですが、文字が読みづらくなってしまうのは広告デザイン的には避けたいところ。印刷物の制作では白抜き文字の使用には気をつける必要があります。

広告物の制作実績を、このホームページでご確認頂けます

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